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「メタ認知」とは何か


発達症で困っておられる家族の方は、どうして当事者に常識的な判断ができないのだろうと困っておられると思います。
これは、障害というよりも脳機能の成長発達の遅れなのです。
ですから、まだそれが理解できるところまで育っていないのです。
そのような常識的判断は、当事者の自分の客観化ができるようになることで可能になります。
この客観化するもう一人の自分のことを「メタ認知」というのです。
メタ認知は、精神分析で言うところの「超自我」です。良心とか倫理観とか道徳とか言われるものです。
小さな子どもで考えるとよく分かると思うのですが、道徳的なものは成長発達と共に身についていきます。
ですから、成長のためにはある程度の年数が必要なのです。
つまり、発達症は「メタ認知」の発達が遅れる傾向があり、どうしても社会常識的な考え方や判断が難しいのです。
そのために、対人関係がうまくゆかない原因にもなっているわけです。
「メタ認知」は脳科学的に言うと、脳の前頭前野〈でこのあたり〉で機能します。
つまり、でこのあたりの脳細胞の発達が未熟なわけです。
もう少しだけ詳しく説明すると、脳の前頭前野の神経細胞はできているのだけれど、情報の伝達速度が遅くて、理解したり判断したりするのに時間がかかってしまうのです。
ですから、当事者は常識的なことが全く分からないのでなく、それを判断するのに時間を要するのです。
ですが、家族や親などの身近な人からすれば、さっさと判断しない状態をみて、当事者が分かっていないというように感じてしまうわけです。
通常、脳の前頭前野の神経細胞の成長発達には、20年かかると言われています。
ですから、未成年の当事者が常識的判断ができなくても仕方がないのです。
とくに発達症であれば、脳の神経細胞や脳ネットワーク機能の成長発達は、どうしても遅れる傾向にあります。
ですから大事なのは、成長発達を温かい目で見守っていくことなのです。
私は発達症で苦しむ当事者は、30年ぐらいかかると考えた方がよいと思っています。
さて、親は当事者の状態を見て、このままでよいのだろうかと心配になりますね。
だけど、脳細胞の成長発達の問題なので、教え込もうが叱責しようがほとんど役に立ちません。
大事なのは、温かい気持ちで見守って待つことなのです。
たいていの家族、特に親子の深刻な問題では、親が当事者に強引に教え込もうとして当事者が反発して、どうにもならない状況になっていることが多いと感じます。
親の当事者を思いやる気持ちは理解できますが、それではうまくいかなないのです。
だいいち、親がうるさく言うと当事者は何も話さなくなってしまいます。
親子の断絶ですが、このような親子の状態が当事者の長期の引きこもりの原因にもなります。
そのようなことで、当事者の「メタ認知」の発達を温かく見守ることを、大事にしていただけると嬉しいです。
最後に、発達症は対人関係能力などが定型発達と同じ水準の状態になりませんが、「メタ認知」の発達により、社会生活にほとんど困らないところまでの発達をします。
当事者の可能性を信じて支援し、見守ってやってください。