見栄をはって、彼女と初めて行く高級レストランに入ると、ボーイさんが英語で書かれているメニューを持ってきました。
「えーッ!」何を注文したらよいものか分からず、悩みますね。
なんせ、メニューが英語で書かれてあるので、うまく読めません。
そこで、こんなレストランへ来るのではなかったと後悔します。
このような経験は、みなさんにお有りでしょうか。
私は、たくさんあります。
これは何が起きているのかというと、初めての高級レストランというところで、知らないことばかりから、ワーキングメモリー不足が起きているのです。
レストランの店内で見るものが初めてのものばかりなので、視覚的な処理ができず、混乱を起こしているわけです。
よく似た話で、初めて自動車を運転した時、景色を楽しむ余裕などがなく、ただただ、緊張しながら安全に運転している感じになったのを覚えているでしょう。
これも、ワーキングメモリー不足を起こして、余裕がない状態になっているのです。
でも、何回も自動車の運転をしていると、きっと鼻歌を歌いながらドライブを楽しむようになるでしょう。
そのようなことで、初めて作業をするような経験の状態では、ワーキングメモリーの不足を起こすわけです。
だけど、何回も同じ経験をしていくと、ワーキングメモリーを使わなくても大脳新皮質の長期記憶が使えるようになり、混乱しなくなります。
このような経験によるスムーズな行動のことを、「慣れ」というのですね。
さて、会話でも同じようなことが起きています。
発達障害と言われる方や精神障害の方は、喋るのは苦手と言われることが多いのですが、簡単に言うと、喋り慣れていない方が多いということになります。
どうしてかというと、会話というのは相手が言った事柄を覚えておいて、それに対応する言葉を返さなければならないので、ワーキングメモリーをいっぱい使うのです。
そして、慣れていないとワーキングメモリー不足を起こして、パニック状態に陥ります。
会話は言葉だけでなく、身振りや手振りなどの身体動作・言語でも伝えますので、余計に負担が大きいのです。
私は当事者グループワークで会話のトレーニングをやっていますが、その場合、静かな会場で、一人ずつが自己紹介していくような方法から始めます。
必要以上のワーキングメモリーを使わないように配慮して、とりあえずメンバー同士が知り合うことを大事にしています。
何か月もかけて、ゆっくりと会話ができる状態に進めていくのです。
さて、先ほど「慣れ」のことが出ました。
そしたら何でも慣れたらよいのかというと、そうではありません。
例えば聴覚過敏の改善のために、音に慣れさせると言って、うるさい騒音の場所に連れて行ったり、人ごみに慣れさせると言って、デパートの催事場へ連れて行ったり、そのようなことは逆効果です。
余計に過敏となります。
慣れさせるとは、ワーキングメモリーで処理をする作業であり、長期記憶で対応ができるようにするものです。
ワーキングメモリー不足を助けるものです。
ですから、慣れさせるために本人が困る嫌な経験をたくさんさせると、ますます苦手で嫌いになってしまうわけです。
嫌だという経験が、長期記憶に移されることになるのです。
こんなことは、「やめておいた方がよいですよ」という話です。
まとめると今回の話は、経験を重ねると大脳新皮質の働きで、長期記憶に蓄えられた記憶を使うようになり、ワーキングメモリー不足を起こさなくなり、混乱が減るということでした。